曇り日の複写機ひらき詰まりたる雲のひとひらつまみ出したり

河合育子「青葉風吹く」

大松達知発行『COCOON』創刊号(2016年)より

 

同人誌は、いろんなお菓子の詰め合わせみたいで、わくわくするものです。『COCOON』は結社「コスモス」内のグループ誌で、1965年以降生まれの23名が参加しています。

上の歌は巻頭作品より。全体に向日的な作品が多く、その代表のような一首です。オフィスでよくある出来事を、〈雲〉の見立てによりファンタスティックに描いています。

そんな見立てもゆかいですが、まずは〈曇り日〉という導入が、その後のなりゆきのちょっとした翳りを予告しているよう。

すると後半は〈雲〉とせず「紙のひとひら」と写実表現にしても、短歌としてじゅうぶん成立しそうです。でも、想像のひとさじを加えるウイットにより向日性がつよまりました。

音のひびきも、「ふくしゃき」「ひらき」の脚韻、「つまり」「つまみ」の頭韻が印象的。

 

本誌創刊の辞より「人生には近くでその人を見つづけてくれる人が必要なように、歌を作る上でもその人の歌を近くで読みつづけてくれる人が必要なのです」(大松達知)、編集後記より「『COCOON』という名前はコスモスの先輩、高野公彦の歌『行き行きて帰らざるもの この夜ふけ天界に白きCOCOONうかぶ』から付けました」(小島なお)。

共同作業のたのしさが伝わってきます。他の方の作品もいくつか。

 

「が」とすれば良かつた助詞を「は」と言ひて苦手な人がバレてしまつた  水上芙季

こんなに磨いちやくすぐつたからう亡き父の墓石黒く光らせてをり  山田恵里

キャラメルはミルクキャラメル『桐の花』とおない年なるキャラメルの黄[きい]  有川知津子

日に透ける小瓶の底に静もれることばにならぬ色を愛せり  月下 桜

夕暮れのガストの小さきテーブルは家族で浸かる湯船のやうだ  柴田佳美

どこからか湯のにほひ来る夕ぐれよ売上月報表のうへにも  斎藤美衣

ひさびさに家族のそろふ食卓に気恥づかしさうにマヨネーズ立つ  岩崎佑太