福島泰樹『哀悼』
(2016年、皓星社)
著者第29歌集より。
この「クオリア」で本年1月4日に三井修さんが前の歌集『空襲ノ歌』(2015年、砂子屋書房)から取り上げられた
逆立った髪の先から燃えてゆく裸になった白いろうそく
とは対照的な歌です。色彩的にというだけでなく、前歌集が戦災による不特定多数の死者を念頭においているのに対し、この歌集は著者とほぼ同時代を生きた特定の物故者(創作者、文化人など)への哀悼が主となっています。
どちらの歌も平易な散文調の出だしが、黒いピアノ、白いろうそくという物体のイメージへ収束してゆきます。とくに〈黒鍵ばかり〉はすでに現実の鍵盤のすがたではない点で作者の主観がつよく、美意識に暗鬱さが加わります。
“黒”の幻視は、二〇〇八年に逝去された歌友の黒田和美さんに捧げられた歌であるため、その姓から引きだされたのでしょう。
この歌は歌集の最初のほうの章「追憶」にありますが、終盤の章「黒鍵」でふたたび
遠い夜のあなたの家の団欒の グランドピアノ黒鍵ばかり
という歌がこだまします。
モノクロームの歌集カバーにはアップライトピアノが黒々と写っています。黒田さんゆかりの品かどうかわかりませんが、著者撮影ということで、僧侶歌人である福島さんの仕事の本質、すなわち哀悼がそのまま画像で語られています。
跋文には、こんな“白”の歌が引かれています。
わが裸身白くちひさく畳まれて君のてのひら深く眠らむ
(黒田和美『六月挽歌』2001年、洋々社)