遠藤由季「紺色のベスト」
ロクロクの会・著『66』(2016年)より
文学フリマの広がりにともない、各地でさまざまな冊子が発行されるようになりました。『66』の発行日は先月の文学フリマ東京の開催日。各短歌結社で活動している、おおむね四十代の女性たちによる作品と座談会記事という正統派のコンテンツです。
幅広い人材が望まれる結社とは対照的に、あえて立場の近い人びとが集まることで見えてくるものもあります。
掲出歌は見てのとおりの平易な内容。ただ、数十年前にくらべると語り口がずいぶんライトになりました。作者の個性だけでなく、離婚を人生の失敗ととらえなくてもよくなった時代の雰囲気にもよるでしょう。
契約解除、くらいの感じです(ちょうど現在、契約結婚を扱ったテレビドラマが好評です)。ボトル二本は多めですが、白ワインという選択が都会的で、やけ酒の感じはありません。
夫婦関係にまつわる、他の参加者の歌もすこし挙げてみます。
底知れぬ森に時折見失ふ夫はけふも裸足のままで 岸野亜紗子
妻でありき短き日々のひとところ麦茶を沸かす大き薬缶あり 後藤由紀恵
智恵さん、と呼べばかなしも紙絵なれば褪せてゆくほかなき花の色 齋藤芳生
3首めは詞書に「二本松市智恵子記念館」とあります。いまの世なら高村光太郎との関係はいくらかちがったものになるでしょうか。
本誌はもちろん結婚の話題だけではありませんが、関係のなかで生きる女性の心の陰翳が各人の作品や発言から読み取れます。批判のある歌も。
性別は思想をこえて憎まれてヒラリーの画像にww(わらい)付けらる 富田睦子