鈍いひかりの空から音もなく落ちる……トナカイ その後 橇 マスタング

しんくわ『しんくわ』

(2016年、書肆侃侃房)

 

第3回歌葉新人賞(2004年)受賞作をふくむ歌集より。

歌集のオンデマンド出版権を得られるという賞でしたがこの回は実現せず、12年を経て書籍になりました。監修者(加藤治郎)と編集協力者(田丸まひる)の牽引だけでなく、読者の後押しが大きかったようです。

この賞では他の受賞者(斉藤斎藤・笹井宏之など)を見ても、どこかナンセンスな表現が高評価だった印象がありますが、しんくわ作品はとりわけギャグに近いテイスト。

4コマ漫画のような短歌を書きたいという話を歌友から聞いたことがあります。5首連作「鉈と塩」のラストにあたる掲出歌はまさにそんな感じ。起承転結、まで行くとふつうの漫画になるところを、いわば起承転転にして詩へ舵を切っている。

空を行くサンタクロースがなんらかの理由でコントロールを失ったのか。トナカイ、橇につづき、なぜかアメリカ車マスタングが落ちてきます。この前に恋の文脈の歌があるので、善意のサンタ(はどこへ?)は恋人を誘うための車を運んできてくれる途中だったのでしょうか。

やるせない想像をしてみましたが、ところで鉈も塩も作中に出てきません。

 

津山の夜 津山のクリスマスの夜 吉井川沿いのバス停の冷たいベンチ

難しい漢字のように降る雪のように忘れるようにしまおう

 

2・3首めの歌です。岡山県の津山は、昭和初期の大量殺人事件が語りつがれる土地でもありました。

あっ、鉈……。

雪は、しおからい雪なのかもしれません。