元日すでに薄埃あるテーブルのひかりしづかにこれからを問ふ

荻原裕幸「不断淡彩系」

荻原裕幸発行『短歌ホリック 第1号』(2016年)より

 

「家集」でもありうる歌集の編集を一軒家の建築に喩えるなら、同人誌はいわば櫓の組み上げでしょうか。祝祭感があります。

今月3日に引用した『66』は「おおむね四十代の女性たち」の会誌でした。本日は地縁型、名古屋周辺の歌人たちによる冊子からです。

掲出歌は一昨年の本日付でツイッターに投稿されたおり、「正月から平常運転です」との付記がありました。たしかにこの歌、スピードを上げる気配はない。

このたびの連作では、まさに〈これから〉への布石として最後に置かれています。

歌の前半は序詞と見てもよさそうですが、初句の語法はやや奇妙に思えます。年のはじめをあらわす〈元日〉と過去をあらわす〈すでに〉の接続が急で、時間が早送りされたような。

じつはどこかでだれかが、なにかのスピードを上げたのか。

歳時記的に考えれば、年末に掃除をしたばかりなのにもう埃がうっすら積もっているという情景でしょう。

ふしぎはないのですが、初句の早送り感覚により、見えない手が見えない速度で埃をかけていったような気がしてきます。光速という概念が浮かぶとき、その霊的な手はきっとあかるい。

 

昨日のわたしが今のわたしを遠ざかる音としてこの春風を聴く

 

時間を制御することはできなくとも、その微妙な伸縮やズレを感知できることが作者の能力であり作歌動機であることが、こんな歌からもうかがわれます。

「現代百人一首」や公募の一首評もあり、短歌だらけのたのしい同人誌でした。

メンバー各人の作品を引きます。

 

目を閉じて片足でゆらゆらしてるあいだに孤独がすごい集まる  小坂井大輔

たのしいと思う気持ちが静電気めいて近づくたびにはじける  辻 聡之

造花とは思うがなんかこれ枯れてへんかマジョレルの食卓の上に  廣野翔一

アルパカがひたすら草をぶっちぎる音を聞きつつ恋人をする  谷川電話

ああ走り出したのだろう映像がぶれてるそして黒く途切れる  千種創一

さっきからずっとストローの袋をもんでもしかしてそれ鳥になるの?  戸田響子

 

本日で私の担当は終わりです。多様な文脈や媒体、環境に取りまかれた一首として扱うようにしていましたが、深く読めないこともたびたびあり、今後の課題としたく思います。

1年間ごらんいただき、ありがとうございました。