今井恵子


薄墨のひひなの眉に息づきのやうな憂ひと春と漂ふ

稲葉京子『柊の門』(1975年・桜桃書林)

 

全国で雛祭が盛大に行われているところは多いようだが、わたしの住む鴻巣市でも、近年、「びっくり雛祭り」という巨大なピラミッド型雛段が話題を集めているが、わたしは、雛人形は、びっくりしたりせずに、部屋の一隅に飾り静かにゆっくりと春の訪れを祝ぐのがいいと思う。ちなみに中山道の宿場町鴻巣は、江戸期には人形職人が多く住む、人形の生産地だった。雛人形を盛んに江戸へ出荷していた。今わずかに残る旧中山道沿いの人形店は、この季節になると、ぐんと華やぐ。

 

3月3日は昔、上巳の節句といい、人形によって厄災よけをしたのだという。沖縄や奄美の浜下りも、3月3日の女性の行事で、遠いところでは雛祭りとつながっているのだろう。

 

掲出の歌は、細く引かれた雛さまの目の上に、ほんのりと描かれた薄墨の眉。平安貴族の描き眉である。職人に受け継がれた筆の冴えがあり、作者の憂いがあり、春の季節がめぐる。

 

稲葉京子は、先ごろ故人となったが、「母の歌に新しい領域を加えた」(三省堂『現代短歌大事典』)といわれた歌人である。

 

かくれんぼいつの日も鬼にされてゐる母はせつなきとことはの鬼