原発が来りて富めるわが町に心貧しくなりたる多し

佐藤祐禎『青白き光』(2011年・いりの舎文庫)

 

『青白き光』は2004年に刊行された歌集だが、東日本大震災に続く福島原発事故に際して文庫化され、注目された。農業を営みながら、原発に反対し、地元の動向を直視した歌が実情を伝える。

 

原発事故は、わたしのように報道の情報によって考えるしかない者は理解の及ばないところが多い。原発の是非についても然りである。しかし、引き起こされた事の重大さは、次々に新しく深刻な事態を引き起こし、住宅問題や差別や苛めや人心不信や地域格差を招いている。

 

この一首、「心貧しくなりたる多し」という嘆きが、人間の弱さを露呈して哀しい。考えてみれば、「心貧しく」生きるかどうかは、このような事故がなくても、日々わたしたちが遭遇している現実の中にある。一般論として、短歌作品と作者の実像は必ずしも一致する処ではないが、事故後に、佐藤祐禎氏の写真を見たとき、わたしは何とも清々しい印象を受けた。心貧しくなるまいとした人の顔であった。歌を綴る原点とおもう。

 

原発に勤めて病名なきままに死にたる経緯密かにわれ知る

「この海の魚ではない」との表示あり原発の町のスーパー店に

原発に富めるわが町国道に都会凌がむ地下歩道竣る

 

東日本大震災後の再刊によって、わたしは、知らなかったこと/知らされなかった事の大きさに驚いた。また、人知れず、心貧しくなるまいとしている人の存在を知った。