香川ヒサ『テクネー』(1990年)
読みはじめて、え、何のこと、と何度か目をさまよわせる。
そして、気がつく。
やわらかな音の運びのなかに、紡ぎだされるひらがなのことばは、
初めから読んでも終わりから読んでも、
かさはさか
きゆはあはゆき
くさはさく
「循環バス」が、そのヒントとなりながら、動かないバスのなかで、言葉あそびをしている人が浮かんでくる。
ひらがなだけで書かれているところは、またバスをとり囲む風景も思わせる。人々は傘をさして坂にかかる。淡雪がほんのり消えたところに、あおい草がのぞく。そこにはやがて花も咲くだろう。
・うすくこき野べの緑の若草に跡までみゆる雪のむら消え 宮内卿
こんな古歌もふと思い出す。
機知をはたらかせ、全体の音の効果も巧みにつくられた歌のなかに、ふっくらとした詩が息づく。
動かないバスのなか、こんな風に豊かに過ごしませんか?
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今年一年、この欄を担当させていただきます。新しいうた、ちょっと古いうた、とっても古いうた、たくさんの魅力的な歌に出会いたいとおもいます。どうぞよろしくお願いいたします。