白つつじゆたかに昼の日は射して蝶、蝶を追ひ人、人と行く

高野公彦『無縫の海 短歌日記2015』(2016年・ふらんす堂)

 

『無縫の海』は、歌人が1年間、1日1首作歌するシリーズの1冊。書店のHP掲載作品が1冊になった。あらためて通読してみると、HP上とは違う作品の表情がある。作者が折々に作った1首1首が、時間の流れのなかで新しい表情を付与されるのである。自分のアルバムと重ねながらカレンダーを繰るように読み進むのも楽しい。

 

引用の歌は5月8日の1首。「もつれ合う雌雄の蝶、そして男女手をたずさえて歩くヒト。動物界はそれぞれの『性』で織り合わされている」という詞書がついている。うだるような暑さというにはまだ間があるが、急に日差しが強くなる5月、野にも町にも花が咲き満ちる。では桜をどう歌ったのか、気になって繰ってみると、4月2日に【川べりに桜ひともと咲き満ちて一糸まとはぬ命のかがやき】とある。こちらは桜にちょっと距離がある。

 

対して「白つつじ」は迫力がある。とくに4句の、句跨りを誘うかのような息遣いに、蝶と人がともに動物として捉えられ、甘美で美しい。生殖の観点から美しく性を歌うのは難しいが、この歌には生命の躍動が感じられた。

 

自衛隊を軍に変へゆく男あり蟬ら地中に潜める五月

歌の評聞けば評者の実力と人格までも分かる(気がする)

いわし雲広がる秋も原子炉の底に妖怪デブリ棲み継ぐ

 

1首独立のためだろう、題材が多岐にわたり、作者の機知や博学ぶりがよくわかる。

何気ない言葉が新しい発見を誘う。