核実験大成功と歓声の上りたる場所トリニティサイト

紺野万里『雪とラトビア*蒼のかなたに』(2015年・短歌研究社)

 

「トリニティサイト」とは、1945年7月16日にアメリカ合衆国ニューメキシコ州で行なわれた人類最初の核実験場である。核実験成功の先に、ヒロシマ・ナガサキがあった。広島に投下された原爆の火は長く保存されており、その火を実験場に戻そうと2500㎞を歩く僧侶の行動が、映画「GATE」になった。永平寺で上映会があり、映画を見た作者は、連作「風下の人」をつくった。「風下の人」は被爆者のことという。

 

今夏もテレビではヒロシマ・ナガサキの特集が組まれていた。オバマ大統領の広島訪問のときのような関心を集めたとは思えなかったが、番組を見ながら、これまで語られてこなかった事実が、ゆっくりとではあるが、広範囲に知られるようになってきたのだと思った。事実が、72年を経て明かされるまでには、さまざまな積み重ねがあったことも報道された。上記の映画もそのような営為の一つである。

 

引用の歌は、「トリニティサイト」を説明指示しているだけだが、認識を記録する歌だ。人類の歴史が変わったといわれる象徴的な場所を脳に焼き付けておこうという強い意志が感じられる。映画「GATE」のこと、「風下の人」という言葉をわたしが知ることができたのもこの歌のおかげ。歌い続けるということの意味を思った。

 

極月の日本海の轟きの一部となりてアクセルを踏む

日本語とふたつの異国の声に読む雪の歌 雪の科学館にて

六百キロの「バルトの道人間の鎖」を形成しラトビアの得た独立、言葉

 

作者は福井県の人。雪と原発は大きな主題。雪のつながりで、日本ではあまり馴染みのないラトビア語を体得し、ラトビア「詩の日々祭」に参加するなど、歌人としては異色の活動をしている社会派である。