夜の梢ふかぶかとせる地上にて少年が少年とボール投げあう

山下泉『光の引用』(2005年)

 

夜だから、というのではなく、少年と少年がボールを投げ合う光景にいっこうに現実感がない。動作が描かれながら、止まっているような感じがする。一枚のエッチングを見るようだ。

 

夜はずっと続き、少年たちはいつまでもボールを投げつづける。

 

・少年は少年とねむるうす青き水仙の葉のごとくならびて  葛原妙子

こんな歌が意識の底にあるのだろう。でも、ここには透き通るようなエロスがある。

 

少年と少年の組み合わせは同じながら、冒頭の歌は、エロスどころか、生命感がない。「少年」は、なにか純粋なものの象徴記号のようだ。

 

深々とした静けさのなかに、終わることなく行き来するボールを思うとき、不思議にやすらかな気持ちになる。

その安らかさは、生命の濁りのなさからくるのだろうか。

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