橋本喜典『悲母像』(2008年)
この歌のおかしみを味わうには、歌集一冊を読んできて、この<わたし>が老齢の域にあることをふまえた方がいい。
せっかく土産をもって訪れたというのに、妹は留守。
三句目の「仕方なし」という言い切りにあらわれた、ざっぱりとした思い切り方、続いての乱暴な行為。これは絶対、ジイサンの行為として眺める時が一番おかしい。
普段はたぶん、ケガなどをおそれて慎重にふるまっているであろうに、こんな時はやおらハメを外す。大丈夫なのか、まあ、土産がかるいものでよかった、とほほえみを誘われつつ、妹との長い親愛にみちた関係も感じられて、あたたかい気分になる。
帰ってきた「妹」が、庭に落ちている乾燥芋を発見して、「兄さんたら……」とあきれるさままで想像される。
乾燥芋の小道具がまた、このふたりにぴったり。