夕闇に人を渡してひとときはまぶしきものか如月の橋

大谷雅彦『白き路』(1995年)

 

 

もう暮れてこようとする頃、恋人をかえす。
橋の上はことに冷える。風もつよい。
しかし、大切な人を渡しつつある自分には、そこが輝いてみえる。

 

この歌では、「人を渡して」とあるところがポイントののだろう。

人が渡ってゆく橋が、まぶしいのではない。自分が主体であることが、今まであった二人の時間を確かめ直すような思いでもって、渡りつつある人を守るような感じを生むのだろう。

 

 

・君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ     北原白秋

 

この有名な歌と、その点の構造は同じ。
ただ、白秋の方は幸福感のほうがたって、大谷のような見守る感じはない。
それは、「君かへす」のテンポのよさと、「人を渡して」のゆっくりとした声調の違い、たとえばこんなところからも出てくるものに違いない。

大谷の方がまなざしが静かで内省味を帯びている。

 

「朝」の近代、「夕闇」の現代、青年はまぶしいのはひとときであることを知っている。

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