水原紫苑『さくらさねさし』(2009年)
同性を愛するということは、少なからぬ場合に、精神の匂いを深く感じさせるところがある。
そこに、理解の届かない精神のありようが潜んでいるようで、遠いあこがれをもつ。
「同性を愛するけもの」は、だから、獣の枠をはみ出してしまう。
その存在を「聴」いたのは、内なる声によってであろう。
このような愛のあり方を思うとき、下句の行為をどう受け取ればいいだろうか。
冬の唇は、つめたく乾いている。
それをさらにつめたい水に寄せる。
冷えた陶酔を誘われるとともに、なにか厳しい感じも受ける。
ここには、「けもの」に対する共感が込められていないだろうか。
愛することや在ることへのかなしみ、愛するということの各々一回限りのあり方への思い、それらがしずかに胸をひたす。