「なにもなにも小さきものはみなうつくし」日向(ひなた)で読めば桃の花ちる

松平盟子『プラチナ・ブルース』(1990年)

 

 

かぎ括弧でかこわれた所は『枕草子』から。その一五一段「うつくしきもの」で始まるなかに、「雛(ひひな)の調度(てうど)。蓮(はちす)の浮葉(うきは)のいとちひさきを、池よりとりあげたる。葵(あふひ)のいとちひさき。なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし」(池田亀鑑校訂、岩波文庫)と出てくる。「うつくし」ということばには、この当時、ちいさなものをかわいらしいと眺めるところから、美の意識も出てきていたらしい。清少納言は、有名なこの段で、子どもの様子などを、それこそ目に浮かぶように描写している。

 

この歌では、桃の花が出てくるから、やはりお雛さまのことなのだろう。

 お雛さまの調度品……。女雛のもつ扇、男雛のさす刀。そして、鏡や刀かけ、おとぎ犬といったお道具類。ごちそうがのったお膳が並ぶこともある。

こんな小さなものたちが女の子をどんなに喜ばせてきたことだろう。昔のお姫さまは、こんなものに囲まれて暮らしていたんだ、という珍しさとともに、それらは小さいからこそ、うれしく、好奇心をそそられる

わたしも、すごく細かいところまできれいな糸で綴じてある、などといじりまわして、ほとんどをこわしてしまった。

 

この歌の「わたし」も自分のお雛さまのことを思ったろうか。

 

日向はあたたかく、桃の花はあかるく散りかかる。

『枕草子』のことばを香るように置いた、桃の節句の頃の歌。

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