子の描きしクレヨンの線ひきのばし巻き取り母のひと日は終はる

栗木京子『中庭(パティオ)』(1990年)

 

 

幼児との暮らし。

朝、起きてくると、着替えをさせる。パジャマはくしゃくしゃ。
顔を洗わせる。あたりはびしゃびしゃ。
メシを食わせる。パン屑がぼろぼろ。

 

夜まで、母はいちいちを手助けし、あとからあとから片づけてまわる。

この歌はそんな一日を「クレヨンの線ひきのばし巻き取り」とたとえてみせたのが、大きな魅力。
「子の描きし」だから、絵をかく幼児の姿も出しながら、途中からするりと自身のことへ転換している訳だ。鮮やか。

母のなげきやむなしさは、絵をかく子どもの姿と重なることによって、ちょっとしたため息のような感じで伝わってくる。
と同時に、クレヨンの色のような明るい線を、日々、子にのばしてやるのは、自分なのだという、自負もここにはあることだろう。

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