砂に寝て聴いてをります波とわれ息が合ふつてかういふことか

柳宣宏『施無畏』(2009)

 

 とぼけているようないないような不思議な文体から、人間とは何であるのか?という大問題にすっと入ってゆく。

 あれこれとものを言おうとせずに、直観的な把握を一直線に述べる。山崎方代に似ていながら、もっと整理がついているような歌が多い。

 神奈川県大磯町に在住の作者。海辺の歌が突き抜けている。

 

 この一首も、ただ、波が寄せて返す呼吸が自分の呼吸と合ったことに、素朴な喜びを見出しているだけだ。

 それは、生きていることの不可思議を喜び、現代人が人間以外に対して抱きがちな不遜な態度をやんわりとたしなめるような口調である。

 人間は自然のほんの一部であり、長い地球時間のつい最近になってはびこっているだけなのだ。ということは、だれしも頭ではわかっているはずなのだが、この作者のように頭をカラにして体で感じようとするのはすごいことだ。

 つぶやき言葉を旧仮名に乗せて書くところからも妙に達観した感じが出ていておもしろい。

・曇りたる浜辺に波を聴いてゐるなにもしないでうれしくなれる

・砂浜に転がれる石大きくて角は丸いが愛想は言はぬ

・さざ波は小さな音を立てて寄る波の作法はただのそれだけ

など、どれも幸福感に満ちている歌である。疲れた頭にじんわりと効いてくるんだなあ。

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