片岡絢『ひかりの拍手』2009
この次に、
・「婚姻届の用紙は全国共通です」これは百回くらゐ言つてる
が置かれる。
地方公務員として、市役所の窓口業務をやっている人の歌。(配置転換が多いから、ずっとこの業務だけを続けているわけではないだろう。)
瞬間を強く思う心がある。
身もフタもないような直截な文体から、自分は何者であり、社会は何であるかを、ごくごく自然に問うてゆく。
荒削りだけれど、その思い切った文体がいい作者。
ある日、まいにちまいにち、同じ業務を繰り返している自分と自分の発言に気付いた。唖然というよりも、茫然とする感じがある。
1000回同じことを言うのに何日かかるのかわからないけれど、1000回同じことを言うことが、ある種の達成でなく、徒労に近い感覚でとらえられている。いや、徒労という否定的な感情ではない。
しかし、この一首から倦怠感や嫌悪感を強く感じることができない。
「フラット」という批評用語に少し似て少し違う。もっと前のめりになって日常を走っている感じがある。そのあたりがこの作者の新しさなのだと思う。