かなしくも恋と知る日はかたみにも悔いて別るる二人なるべき

原阿佐緒『白木槿』(1916年)

「悔いて別るる二人なるべき」と詠まれたこの恋はつらいだけの恋ではなかったとおもう。
だいたい、つらいだけの恋などない。

言葉にすることのできないおもいを持つことは誰にでもあるだろう。この恋だけは死ぬまで誰にも知られないまま、自分と誰かだけの秘密なのだと自分に言い聞かす。
あるひとは、そのおもいを大切にしまっているだけで胸に小さな花が咲いているように幸せでいられるかもしれない。

この歌は今から百年ちかく前に詠まれた歌。こいびとたちの名は原阿佐緒と古泉千樫である。
原阿佐緒は石原純との許されない恋愛によってアララギを破門になったが、この歌は石原に出逢う前の儚い恋を詠んだもの。歌によってお互いに惹かれあい、逢う。ほとんど顔を合わせたことのない相手である。そんなことがあるのか。あるのだ。

路傍(みちばた)の石にも似つつ心なくありて君をばつまづかせける      原阿佐緒

うつつなくねむるおもわも見むものを相嘆きつつ一夜明けにけり      古泉千樫

朝なればさやらさやらに君が帯むすぶひびきのかなしかりけり       古泉千樫

このふたりは、一夜だけをともにして、もとの友人に戻ろうと約束したといわれている。

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