松村由利子『大女伝説』(2010年)
歌集名と同じ、「大女伝説」の章の最初に置かれた歌。
「あとがき」に、「『大女』の話を聞いたのは、群馬県・猿ケ京を訪ねた折のことである。夫より体格がよくて力も強く、毎朝小さな夫をおぶい二人して畑へ出かけたという話、また、雨が降ると、笠をかぶるように石臼をひょいと頭にかざしたという話……。おおらかな大女は地母神を思わせ、私はとても愉快な気分になった」とある。
連作への導入として置かれた掲出歌、「ぽおんと楽し」が、ここで「愉快」と書かれた気分を短く、でもとてもうまく表現している。「ぽおん」の明るくて、底がぬけた感じがいい。
さて、この「大女」に触発されながら、46首からなる章は、現代の諸問題にも目を配りつつ、大きく展開してゆく。
終わりの方には、次のような歌が並ぶ。
・サバイバル・ゲームの武器は一つだけ夢みる力/夢みない力
・「明るい未来バーガー」ですね 物語とポテトも一緒にお付けしますか
・物語から逃れるという物語 女よ靴を脱ぎ捨てなさい
・大女死すごと大き物語死して世界は荒涼とせり
切れ味がよく、のびのびとうたっている。そして昔話と現代をドッキングさせるスケールに惹かれる。
内に向きがちな現代短歌にあって、ひとつの領域を開拓している。