右へでも左へでもなだれ打つときの「群」といふもののその怖さつたら

岡井隆『ネフスキイ』(2008年)

 

 

右、左はどうしても思想的なものを思わせるが、そんなものはもうない現在、特に何事と限らずに読んでいい歌だろう。

人々の勢いをいうものが、急に何かに傾くとき、それは確かに驚くほどの力をもつ。
何よりこわいのは、勢いをもったものは、不思議に魅力的にみえることだ。何か自分もそこに乗りたい誘惑にかられる、。

 

乗りたい、と書いてふと思い出したが、アメリカの政治記事などによく、”jump on the bandwagon”というフレーズが使われる。人気のある動きに従う、みんなが言っていることを言い、していることをするという意味だ。bandwagonはパレードの先頭を行く楽隊車のことだから、そこにジャンプして乗り込むとはうまいことを言うものである。
いずこも人間は同じという訳だ。

 

この歌のいいのは、「怖さつたら」という節操のない感じの口語でもって、あきれながらも、自分も「群」の範疇から逃れないことを匂わせていることだろう。

 

二句目の九音という長さは、まさになだれ打つ感じ。

 

人間の浅くない心理に触れながら、表層をかるく滑るようなうたいぶりがいい。

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