ティーバッグのもめんの糸を引き上げてこそばゆくなるゆうぐれの耳

梅内美華子『若月祭』(1999)

 

 ていねいな描写と手触りのモノの存在感がある。

 それが水中に重りを下すように自然に下句につながってゆく。そこに説得力が生まれる。

 

 ティーバッグを指でつまむ部分と耳(とくに耳たぶ)の類似性はわかる。いわゆる付き過ぎなくらいだ。

 しかし、そうは感じさせないのが技である。

 それはまづ、「もめんの」一語の力であろう。もし、「ティーバッグの糸を引き上げ・・・・・」とでもなっていたら、歌としての魅力は半減する。

 歌はリズムが内容よりも大切な場合がある。この場合も、ティーバッグを引き上げる速度を表現するためには、ゆったりとしたリズムでないといけない。

 しかし、言葉を入れれば意味もついてきてしまう。

 だから、どういう言葉を〈詰めもの〉として入れてゆくかがキーになる。

 その〈詰めもの〉として「もめんの」や「ゆうぐれの」が効いているのだ。

 プロの歌人は、細部を突き詰めて描写することで、一首に奥行きを出してゆくのだなあとわかる歌だ。

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