熱帯の蛇展の硝子つぎつぎと指紋殖えゆく春より夏へ

林和清『ゆるがるれ』(1991年)

 

 

「熱帯の蛇展」、そんな展覧会。
ガラスの小窓がつづき、その向こうにさまざまな蛇がいる。

 

太いのもいるだろうし、模様がいろんな具合に入っていて、なかには強烈な色のもあって……。
そんなのがうねうね、くねくね。

蛇は、かわいそうなもので、たいていの人は好まない。聖書でも悪者である。

 

こういう場所へ出かけてゆくのは、どんな人たちだろう。なかには生態的に興味のある人もいるだろうし、“美”を感じる人もいるかもしれないが、圧倒的に子ども連れが多いことだろう。恋人同士というのもありうる。

 

そんな人たちが、気持ち悪さと好奇心があいまってガラスに貼りつく。
そこにべたべたと残る指紋を、「春より夏へ」「という季節感に重ねたところがこの歌の眼目。

春から夏は、気持ちのいい時期でもあるが、また梅雨のときでもある。日本独特の、湿度と気温のミックスされた感じ、そこへの不快感が、蛇の前に泛ぶ人間の脂によって、巧みに形象化されている。

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