わが指の頂にきて金花虫(たまむし)のけはひはやがて羽根ひらきたり

明石海人『白描』(1939年)

 

 

明石海人はハンセン病であった。
この病気は、失明や、手足や顔の皮膚の麻痺(それはやがて肉や骨にいたる)をともなう。
そして、長い間、偏見とともにあった。

 

そのたいへんな病苦のなかで、彼はこの美しい歌を紡ぎだした。

 

「たまむし」は、広辞苑によると、「金属光沢のある金緑色で、金紫色の2条の縦線がある」と説明されている。

 

この歌を読むとき、わたしは「頂」に、文字通り山頂を思う。そこに気配のみとなって、とまる虫。それはやがて、黄金に輝く花のように燦然と光を放って、羽根をひらく。そして、そのまばゆい光の中で、世界の山頂と融け合う。

 

凄惨な病のなかで、海人がひらいたこの世界を読み、この融合を感じる時、わたしは自分の存在が豊かに肯定されることを感じる。人が在る、ということはどういうことであるのかわからないけれど、在ることは素晴らしいことにちがいない、と静けさのなかに思う。

 

人として多くのものを奪われたなかで、海人がいたりついたところ、それは永遠の光を放ってわたしたちを包む。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です