茶碗三つ並べて置くよ幸福は夕暮れに来てしづかに坐る

池田はるみ『婚とふろしき』(2007)

 

 短歌は悲しみを盛るのに適する器と言われる。

 万葉集の挽歌から現代の生の悲しみまで、定型は論理を超えて、そのリズムで人を説得し泣かせる。

 しかし、もっと生きている喜びを発見して歌い上げる作品があってもいいと思う。

 村上春樹の言う「小確幸」。それを盛る器として、短歌の大きさとリズムは適している。

 

 池田はるみの、日常のごちゃごちゃをさっぱりと切り落として、「どうだっ!」と勢いよく言葉を提示する感じが好きだ。

 もちろん、生の辛さを十分に知っているからなのだろう、生きている瞬間瞬間を受け止めた、おおらかでゆったりとした生活賛歌、人生肯定が生まれる。

 

 この歌では、これから夕食のご飯を盛られる茶碗が三人分あって、そこに三人が顔を合わせて坐る、というだけだ。

 しかし、そういう光景すら貴重になりつつある現代である。この「幸福」は神々しいほどのありがたさをもってわれわれに迫る。

 今の一瞬を肯定できなければ、人生は肯定できないではないか。肯定できない人生ほど不幸なものはない。今の一瞬を大切に思って生きてゆきませんか? そういう池田のメッセージが伝わる歌である。

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