会津野をほどろほどろに降り敷いて水雪(みづゆき)ほんにかなしかりける

本田一弘『眉月集』(2010)

 

 本田さんは、会津若松在住。

 じっくりと地元に腰を据えて、大きくゆたかに歌ってゆこうという信念が、この第二歌集からも読みとれる。

 「会津野」という言葉は日常語なのだろうか。

 会津という土地の長い伝統に対する愛着や敬意が感じられ、同時に大都市と比較するときの誇りに隠れたかすかな屈折すら感じられる。

 その会津の盆地を一望するように大きく引いたアングルから、はらはらと散る雪の全景を見渡しているようなスケールの大きさがある。

 「水雪」とは、水をたっぷりと含んだ雪のことだろう。

 文脈からすると、会津地方にはそういう雪が多く降るのだろうか。

 パウダースノウのように真っ白で美しい雪景色ではない、どこか愚直で扱いに困るような雪。

 作者はそれを会津の象徴としてとらえ、あるいは自身にも重ねているのだろう。

 数百年にわたって受け継がれてきた土地の時間の幅。

 それを見つめつつ、自分もその会津の中で暮らす一員として、しっかりと時間を受け継いでゆこうとする覚悟がある。

 それが、水雪のかなしさと重なるのかもしれない。

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