何にすといふならねども輪ゴム一つ寂しき夜の畳に拾ふ

田中順二『書斎内外』(1995年)

 

 

どうしようというのでもないが、輪ゴムを拾いあげる。

 

あ、こんな所に輪ゴムが、と拾い上げて、どこか集めてある所にかたづけておく、というのでもないのだろう。

何の意図もなく、ただ拾い上げる。
こういうことが日常にはある。そして、そうすることによって、その場の自分を振り返るような気分になる。自分の小さな行動が、生活の中に読点を置くような感じで、意識にほんの小さな休止を与える。

 

そのようにして、ここでは「寂し」さが確認されているのだと思う。

 

輪ゴムという、ちっぽけな具体が、蛍光灯に照らされた、夜の畳の上のこの小さなモノが、とても効果的だ。

 

・風呂出でてほつとしてゐる夕ぐれを何する家か釘打つ音す
・古本屋四五軒あるにかかはらず今日はうらうらと中央街ゆく

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