城のごときものそそりたつ靑年の内部、怒れる目より覗けば

塚本邦雄『日本人靈歌』(1958)

 

・日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも

で始まる『日本人靈歌』。

 その序盤にこの歌は置かれている。

 

 塚本邦雄は1922年生まれ。この歌集は1956年夏~58年夏の2年間の作品だと「跋」にある。

 30代半ばの作者にとって、自分はすでに「青年」ではなく、敵対すべき対象のように「青年」に向き合っているようだ。

 しかし、その「青年」の怒りはどこへ向かっているかはわからない。作者に向かっているのか、社会全体に向かっているのか、特定の事象に向かっているのか、あるいは青年自身に向かっているのかもしれない。

 

 とにかく、その怒っている「目」から覗き込むと、その青年の内部には「城のごときもの」がそそり立っていたという。

 おそらく日本の城郭ではない。ドイツのノイシュバンシュタイン城のように屹立する西洋風の城であろう。

  青年の牢固な心を、シロノゴトキ/モノソソリタツ、という隙のないリズムによって描出し、内部という客観的な一語によってさらに引き締める。

 もちろん、初句の字余りから、城郭が塔のように空へ聳えているイメージを得られる。

 青年と怒りと城。

 その絶妙で厳格な取り合わせに塚本は存在するのだ。

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