迷鳥の飛来を告げしきみのこゑの用件となりしづまりてゆく

真中朋久『雨裂』(2001)

 

 声に意識が集中している。電話での会話だろう。

 今日ね、メイチョウが飛んで来たのよ、という会話は日常であまり想像できない。

 やはり、作者が気象予報士であったという知識は鑑賞に必要だろう。

 気象を扱うもの同士の会話だと思えば、空を飛ぶものに関心があるのもうなづける。

 

 迷鳥は、

 「普通は生息も渡来もしない地に、台風などの偶然の機会に迷いこむ鳥」(広辞苑)

とある。

 業務と直接は関係ないけれど、テレビやラジオの天気予報の枕になるかもしれない。

 

 そんなひとことを、心が浮き立つようなトーンで会話の冒頭に告げてきた女性。しかし、その声は、用件の伝達になると、いわゆる仕事モードに収まってゆく。(あるいは、会社や業務とは無関係なのかもしれないが、それでもいい。)

 ただ仕事の話だけをする関係から、一瞬、心を許した相手の女性のことを、声のトーンから察知した。女性側からのうれしさや気恥づかしさなどが入り交じったトーンの変化を察知している。

 

 他の人があまり気にも留めないような専門的な迷鳥の話題を共有し、しばし接近した感情が、整理されてゆく短い時間。

 短歌はそういうところを掬うのがうまい詩形である。

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