日昏れ来る 黒き帽子をかむりたる紳士の群れの降り立つやうに

笠井朱実『草色気流』(2010年)

 

 

なにかイラストでも見るような、と思う。
ひぐれがやって来る時の感じを、具体的に人の像を出して表している。

 

帽子はたぶん中折れ帽。
「紳士」なのだから、きちんとスーツを着ているのだが、それはどこかレトロな柔らかい雰囲気のもので、やはり黒っぽいもの。帽子の鍔を傘のようにして、ゆっくりたくさんの小さな「紳士」たち降りてくる。

メリー・ポピンズが空からやって来るシーンを思い出す。

そこから連想すれば、この「紳士」たちもかばんを提げているかもしれない。勤め帰りの多くの人たちと同じように。

 

かぶる、ではなく、かむるの、濁らない音の軽さ等、「降り立つ」がいかにもソフトな感じになるよううたわれていて、二句目以降の景が、「日昏れ」のイメージとうまく重なる。

 

「日昏れ」は、すこしの寂しさを伴いつつ、またあたたかな、おだやかな時間として感じられているようだ。

・屋根づたひほうれほうれと跳び越えて高架電車の日昏れを走る

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