曖昧なることばに輕く手をあげて昭和天皇いづくにゆきしや

一ノ関忠人『べしみ』(2001年)

 

 

 

平成も22年となって、昭和天皇の、ちょっとした動作の様子などを知る人も少なくなった。

「あっ、そう」という、うけこたえ方が話題になったこともあったが、掲出歌はそんなことも思い出させる。

 

あいまいなままに、どこへ行ったのか、という一首には、まず彼の戦争責任のことが思われよう。

そこに、彼とともに去った昭和という時代への回顧がまつわる。

 

それらとともにわたしには、あいまいに、そして軽くあらざるを得なかったひとりの人のことが、この歌の模糊たる雰囲気のなかに思われる。

人間宣言がなされようと、あいまいでなく強くあることは、許されなかったひとりの人。

 

日米安保のありかた、天皇のありかた……、もろもろがこのままにはあり続けられないまでに膨らみきった現在、このたよりなげな天皇の姿は、その根にある問題の象徴のようである。と同時にそうした現実的なことを超えたところで、昭和天皇として生き切った人、そうあらしめた人たち、人間というもの全般に関わる深い思いへ誘う何ものががこの姿にあることを思う。

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