年寄りの冷や水だらうと人の言ふお年寄りには温かい茶を

米口實『流亡の神』(2007年)

 

 

さてこのご老人、何をしたものか? スポーツ、それとも若者に人気のスポットにでも出かけたか、あるいはオンナ……。

 

下句の逆襲がいい。
切り返し方に、コクとキレがある。

「年寄り」に「お」までつけて、普通は思いやりをもって発せされることばをもってきて意表をつく。
あたたかいことばであればこその、この場での威力。ねじれているがゆえに、ことばには複雑な味わいがからみつく。

「冷」を含む決まり文句に対して、「温」を含む決まりきったもの言いを合わせる技。ここからは、固定観念の中にいる人間は、どうあれその中にいればいい、自分はさっさと自分の好きなことをする、という姿勢が浮かびあがってくる。

 

 

・掌に重き乳房にふれてひたすらに溺れゆくとき死は近からむ

・股関節を確めながら起きあがる網にかかつた魚のやうだ

 

この一首目は、妄想か、夢か。

なかなかに味わい深い“老い”の歌が並び、読んでいるとなぜだか、齢を取るにつれて、力は蓄えられるはずだ、きっと、という気分になる。

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