岩田正『背後の川』(2010)
「凛乎」は、「りりしく勇ましいさま。」(広辞苑)。
この歌は「覚めぎはの足冷ゆ」で切れ、「まこと冬来たる」「凛乎ときたる」「冬嘉すべし」とそれぞれ切れている。珍しい切れ方だろう。
まさにそのきっぱりとしたリズム感そのものが「凛乎」としている。この歌集で作者が見せる顔の一つである。
朝、目が覚めるか覚めないかのうちに感じる足先の冷え。そこに冬の到来を感じる。秋から冬への変化の象徴としてその冷えをとらえているのだ。
しかし、そこで弱弱しい感情は持たず、ああ、本当に冬がやってきたのだなあ、冬は冬として力強くやってきたのだなあと、両手をひろげて受け入れるように、冬の命を讃える。
冬は滑り込んできたのではない。冬は毎年とおなじく、堂々とオレの足先を冷やしてその姿を現したのだ、という大きな擬人法である。
歌集には、ユーモラスな歌、色っぽい歌もある。
・天井の木目の裸女も三十年見つづけたればさすがに窶る
・花林糖をバリバリ齧る噛むうちにこいつめこいつめといふ気でかじる
・生(なま)の声きくより電話の声がいい君のすべてが声となるゆゑ
どれも、作者の息遣いがそのまま伝わる、一本の筋の通った歌集である。