イヤフォンのコードに手繰るiPod nano わかさぎを釣る要領で

光森裕樹『鈴を産むひばり』

iPod nano(アイポッド ナノ)」は、マッキントッシュやiPhoneで知られるアップル社から販売されている、フラッシュメモリ内蔵のデジタルオーディオプレーヤー。うんとかいつまんで言うと、音楽をデータで持ち歩き、好きなときに聴くことができる機械。カセットなどがいらない「小さいウォークマン」と言えば、知らない人でもわかってもらえるだろうか。詳しくはウィキペディアの項目を。

ウィキペディアを見ればわかるように、この手の機器は日進月歩で、数々の世代機がすでに発表されている。掲出歌は、角川短歌賞受賞後第一作「検索窓は雪明かりして」の一首として、「短歌」2008年12月号に掲載された。だから、ここで歌われているのは、当時発表されたばかりの第4世代機のように思う。縦90.7mm×横38.7mm×厚み6.2mm、重さ36.8gという小型機だ。

おそらく作者はiPod nanoを、コートのポケットか鞄の中かに入れている。その本体から、長く細いコードが伸び、その先端のイヤフォンを耳につけて、音楽を聴いている。曲の変更かなにかで本体を操作しようと思ったが、小さな機器なので、奥に埋もれてぱっとは見つからない。だから、コードを引っ張って、本体を手繰り寄せた。ちょうど、氷上でワカサギをテグスを手繰って釣り上げるように。

私たちの生活はテクノロジーの変化によって姿を変え、身の周りは次々と新商品にとって変わられる。そうして情報やデータの価値、活用法も変化し、それに伴い、私たち自身の感性、抒情にも変化が訪れる。光森の一首は、そうした新技術との出会いと、ずっと変わらない自然の姿とを、対立するものとしてではなく、渾然一体となるべきものとして描く。時代の流れが招聘した、新しい抒情を光森は掴み取ろうとしている。それはもちろん、長きにわたって蓄積された短歌の修辞を充分に体得している作者だからできることだ。

北海道では氷上のワカサギ釣りが完全解禁になったころ。ワカサギを釣りながら、「これって、iPod nano を手繰るようだな」と、逆の方向から抒情を感じる人も、表れてくるのだろう。

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