ホ-ムラン打たれてがくりとつく膝の膝はやむなく意志に負けしか

大下一真『月食』(2011年)

夏の高校野球の地方大会が始まっているが、作者は、高校野球への思い入れがひとしおのようで、次の歌が歌集にはある。

  びゅんと振る夜の庭にびゅんとバット振る一回戦に太郎は負けて

  メガフォンと伝令役の背番号十六なりの太郎の青春

「太郎」は息子だろう。夜の庭でびゅんという鋭い音で素振りをするのは、試合に備えてではない。一回戦に負けた日の晩だ。もくもくと練習する太郎の悔しさや、次に向かって地道にやるべきことに向かう実直な人柄が伝わってくる。2首目は、「背番号十六」と題された長歌の反歌である。太郎は、レギュラーにはなれなかったが、チ-ム内での役割を真剣に果たした人物であるようだ。作者の歌は、手放しで太郎を称えており、それが気持ちよい。

掲出歌も、高校野球の一場面として読んだ。ピッチャーがホ-ムランを打たれて、マウンド上でがくりと膝をつく。プロ野球のピッチャーではあまり見かけない仕草だ。ショックな気持ちが正直に出た、高校球児らしい場面だ。下句がいい。膝が意志に反して、力が抜けてしまった。逆転されたのか、それともサヨナラか。熱い思いで球児を見つめる作者の視線が、下句の的確な描写から伝わってくる。

 

編集部より:大下一真歌集『月食』は、こちら↓

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