〈姦〉なしてマヌカン積まれしコンテナ車過ぎしか不意に寒ふかき夕

大塚寅彦『夢何有郷』

 

禍々しい一瞬の景。それを見ずに、都市に生きることはできない。いや、その景に精神が慣れてゆくことこそが、都市生活の本性なのかもしれない。ある夕暮れ時にすれ違ったコンテナ車。そこには「マヌカン」、つまりマネキン人形が山積みされていた。いずれも女性の人形だったのだろう。「女」が積み上がる様に思わず、「姦」の一字を想起した。

 

「姦」は訓読みで「よこしま」「みだら」「かしましい」。男女の不義や道理を犯す行いを指し、やかましい、の意もある。まあ、あまり良い意味の漢字ではあるまい。「女」を三つ重ねて斯様な字を表すとは、どうにも古代の性差別的価値観が露骨に表れている。そしてその価値観は現代でもまだ、息をひそめて生きながらえており、何かの拍子で突如姿を現す。そんな一瞬のように、人形を満載した車が通り過ぎたのだ。マネキンではなく「マヌカン」とフランス語読みを選んだ点も興味深い。単にマネキンというよりも、「マヌカン」というと、ショップの販売員などの実際の人間も含むので、積み上げられた人形が、単なる人形とだけは思えなくなる効果がある。

 

  日々つねにホロコースト忌 倉庫には四肢もつれあひマヌカン積まる

 

集中には上記のような歌もある。ナチス・ドイツの収容所では連日虐殺が行われた、だから365日のすべてはホロコーストの忌日である、という意だろう。そこにも、マネキン人形が積み上げられたイメージが重ねられている。ある意味、人形と人間とが交錯し合うような光景として、大塚にとっての都市が存在するのかもしれない。

 

 

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