餅のかび百合の根などのはつかなる黄色もたのし大寒の日々

佐藤佐太郎『冬木』(1966)

 

大寒は二十四節気のひとつで、一年で最も寒さの厳しい頃をいう。今年の大寒は1月21日。私の体感としてはまだまだ寒い一方なのだが、この歌を読むと、なんとなく寒さが緩んできているような気分になって嬉しい。

 

最近は個包装された餅しか買わないけれど、子どもの頃は、年末になると家に巨大なまな板のような餅が来た。玄関先に置かれた餅を包装の上からこっそり触ると、まだほのかに温かく、弾力があった。切り餅にして24個ほどの大きさだったろうか。正月中に食べきれなかった分は表面がひからび、油断しているとすぐにかびた。

正月を過ぎた餅に生えたかび。百合根。鮮明な黄ではなく、白いところにほのかに混ざる、あるかなきかの色を、語り手の目は愛でている。

佐藤佐太郎自身は、偶然「大寒の日々」に見た黄色を詠んだと自註している(黄色は佐太郎の好きな色だったという)が、「はつかなる黄色」は、大寒という季節にとてもよく合っていると思う。春は遠い。けれども、ほとんど目につかないようなところから、季節は確実に動き始めている。「百合の根」という言葉も、根が伸びて花を咲かせるイメージを内包していて、良い。

 

  氷塊のせめぐ隆起は限りなしそこはかとなき青のたつまで

 

知床の氷海に取材した一連から。白いものの中にわずかな別の色を見出すという点では「餅のかび」と似ているが、こちらは雄大な光景をダイナミックに描き出しており、歌の印象はだいぶ異なる。「そこはかとなき青」を言うことで、海を覆い尽くす氷塊の「白」がむしろ際立ち、目の前にまで迫ってくるようだ。

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