錦見映理子『ガーデニア・ガーデン』(2003年)
平熱とは何だろう。いつも不思議におもう。
いっぱんてきには、身体が健康である36度から37度までの体温が平熱、37度になると微熱、それ以上になるとたちまち病気だ、ということになるのか。
しかし、にんげんの体温は一定ではないし、どれが平熱なのかわからない。あるいはどれも平熱なのか。
「われよりも平熱低きことを知る」に、いっしゅんとても不思議な感じがしたのはそのせい。皮膚に触れたたけで、平熱の低いことがわかるのかしら。
この歌の魅力は、そばに眠るこいびとのからだに触れたらおもいがけなく冷たかった、という小さな驚きである。そして、触れたのは額や頬や腕ではなく、「眠れる首」。一瞬こいびとが死んでいるのかと錯覚するような、ぞっとする妖しい表現だ。もちろん「平熱」を感じとっているわけだから、こいびとは死んではいない。
触れた首は、冷たい。
体温が低いひとなのだ。ああ、このひとの身体はいつもこんなに冷えているのか。そうおもうとなんとなくさびしくなったりもするのだろうか。
無防備な冷たい首。掌を享けいれている。この美しい場面にひたすらうっとりする。