いちまいの皮膚にほかならない皮膚を引き裂くほどに愛してもみた

菊池裕『アンダーグラウンド』(2004年)

肉体は裏切る。目に見えるものは滅びる。だから、それだけを信じるわけにはいかない。
目に見えないもののほうが永遠におもえるし、信じるべきなのではないか。

けれど…。
皮膚は、しょせん皮膚でしかないといいながら、どうもそれだけではないと直感してしまう。

この歌の上の句。文体がねじってあるから、迷路に入ってしまったよう。
しかし、この迷路がとてもリアルなのだ。
だれだって自分で自分の気持ちをかんぜんに把握することはできないし、まして愛の場面ではさまざまな感情が入り混じる。

また、初句から三句目までは「引き裂く」の序詞としてはたらいていることがわかる。
まぎれもなくいちまいの張りつめたなまなましい皮膚。
その映像を丹念に組み立てていったあとの「引き裂く」がもつ壮絶な美しさ。

ある日、だれかを愛するようになる。おもいのふかさが深まっていくほど、愛が憎しみを内包しているような感覚になることがある。あれはどうしてなのか。
「引き裂くほどに」という感覚はわかる。おそろしいけれど、よくわかる。

そして、結句「愛してもみた」という冷えきったフレーズにまたひきつけられる。
それは、断絶のあとの、空虚な言葉のようにもおもえる。
憎んでもみた、というフレーズが即座に頭にうかぶからである。

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