渡辺松男『けやき少年』(2004年)
濃緑の葉のなかに、真っ赤なゆすらうめの実がゆれている。初夏の風が吹いている。
果実には、愛の実りのような濃密な生命力があり、その豊かさによく圧倒される。
ゆすらうめの実は小さいけれど、その真っ赤な色のせいもあるだろうが、存在感や生命の密度が濃いような気がする。
そんな実がいっせいに風を享けてゆれている下に立つと、眩暈をさそわれる。
なにか胸騒ぎがしたのだろうか。
「愛を告げすぎて不安になるこころ」のような胸騒ぎ。
愛は、告げれば告げるほどその儚さが強調される。言葉にしたら、愛が減っていくような気さえする。そんなとき、自分の言葉ほど情けなく感じるものない。つたないことば。
ありのままの愛を伝えようとして発する言葉は、どれもひらひらとしているようにおもえてしまう。
そんなときはゆすらうめの実のようにゆれながら、手を握ればいいのだろうか。