秋の陽の白く落ちつつ位置占めて石あり石は石の手触り

今井恵子『やわらかに曇る冬の日』(2011)
 
 
「石は○○の手触り」というフレーズの○○には何が入るでしょう、というクイズがあったとする。短歌に慣れている人ほど、○○の部分に何かうまい比喩を入れようとしてしまうのではないだろうか。でも、正解は「石」だ。石は石の手触り。当たり前といえばこれほど当たり前なことはないのだが、言われてみるとなぜかはっとする。モノ自身が持っている確かな「位置」をきっちり見定めようとする視線に、とても誠実なものを感じるのだ。
クリアな光が、石ころを正しく照らし出している。秋は、モノの本質を見つめるのにふさわしい季節なのかもしれない。
 
 
  病室の話題はやがて宗教へ転じそののち墓石の価格
 
  「下品ではないのに卑しい人だった」母が金魚を見つめて言いぬ
 
  投票に行くとう母をわが夫が障子の向こうに詰(なじ)り続ける
 
 
ちょっと書くのを憚るような、身も蓋もない会話や家族の軋轢についても、「石は石の手触り」式のまっすぐさで言葉にしていく。
10年以上介護を続けた母との別れに際しても、
 
 
  手のひらもて触れればまこと冷たくて母の死顔 泣きながら撮る
 
  今朝母の息絶えていし浴槽に沈めば温もりゆきぬわが身は
 
 
と、あくまで目を逸らさない。その意志の強さに、心打たれる。

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