浜田康敬『百年後』(2009年)
浜田康敬は歌集『百年後』の巻頭にこの一首を置く。
この川の下流おおよそ十キロの鉄橋を夜ごと汽車通る音
「蛍の光」流れ終りて一斉に灯り消えたり洲本遊郭
台風が明日来る前の今日の晴れ稲刈る人ら多く出ている
大いなる目玉にわれは見入られてわれも見返すその牛の顔
この町に生れしわれが思い出の何も無ければまず観光す
深々と寒さはあれど深々と雪降ることの少なき釧路
一冊は3章から構成されており、Ⅰはこれまで過ごした土地を巡って制作した作品、Ⅱは現在の生活の拠点・宮崎での作品、ⅢはⅠに先立ち、「啄木来釧百年」(2008年)の折に訪れた生まれ故郷・釧路の作品となっている。一冊は浜田の歴史である。
各章から2首ずつ引いた。Ⅰではその詩の輪郭を記述し、Ⅱではその詩の核を記述し、Ⅲでは来訪者としてまちを記述しているのだと思う。浜田が短歌をとても愛していることがわかる、そんな一冊でもある。
ラジオより天皇陛下の声聞こゆどうやら戦争がおわったらしい
戦争は誰にとっても、たいへんなもの/ことだったはずだ。だから、戦争が終わることは大きな安堵である。5・8・5・9・7というゆったりしたリズム。「どうやら戦争がおわったらしい」と、柔らかに、そしてすこし間が抜けたようなともいえる言い方で、それをいう。とくに四句の9音が効果的だ。浜田は、正しく生活者である。