十二月八日といふ日つねの如朝の散歩の途次の思ひに

清水房雄『已哉微吟』(2007年)

「十二月八日」とは、いわずもがな。
あの戦争がはじまった日付である。
戦争を知るひとは、夏の終戦記念日よりも、記念日になりようもないこの寒い<12月8日>という日の記憶が鮮明だと聞いたことがある。

ひとは忘れがたい恐怖や困難にぶつかると、瞬間に時間が止まる。
そのかわり、その瞬間からしばらくのすべてがスローモーションのように記憶され、その記憶にくるしめられる。心的外傷やPTSDなどといわれる重篤な症状が出てしまうときもある。
けれど、重い症状はなくとも、なにごとか創を抱えているひとは少なくないだろう。

「朝の散歩」。
一日のはじまりに、夜の冷気がわずかにのこる道を歩くのは悪いものではない。
しずかな時間、身体を動かしながら、自分をみつめる。さまざまな自問自答がなされる。
そんなときなのに、いやそんなときだからこそ、蘇る記憶なのだ。

戦争と自分の存在を切りはなして考えることなどできない。

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