生沼義朗のアーカイブ

伊東一如/まつろはぬ人でありしをいつよりか保守の地盤となれるを憂ふ

白川ユウコ/OKのかたちのままに道の上に白い手袋が死んでいる

橘夏生/二十三階のバルコニーにて川本くんを待つわたしは大阪ジュリエット

池田はるみ/さびしうてならぬ日本がさびしうてならぬ相撲に重なりてゐる

人見絹枝/スポーツに我身(わがみ)くだけと思(おも)ひしも去年(こぞ)のことなり今(いま)は淋(さび)しも

岡下香/人生も料理の味も旨味を出すほんの少しの匙加減 その匙がない

純多摩良樹/食事後の獄は最も静かなりその寂けさのひとときを堪ふ

中川智正/りんご樹をこの世の隅に今植える あす朝罪で身は滅ぶとも

相原かろ/くっついた餃子と餃子をはがすとき皮が破れるほうの餃子だ

後藤由紀恵/どこへでも行けるからだは雛の日の陽ざしの中を職場へとゆく

謎彦/朕ひとりだめになっても朕たちの木型は朕のことおぼえてる

大村早苗/いつもいつもうつむき加減のアネモネの激しい色と弱さを嫌う

田中ましろ/生きるとは硬貨を抱いていつまでも着かないバスを待つ人のごと

伊藤香世子/頭良くなると信じて食卓の味の素振りし昭和の生まれ

橋場悦子/〈当職〉といふ主語による通知書に封をす切手の裏は舐めない

本川克幸/陸岸のかたちを指でなぞるとき仄あたたかきレーダー画面

筑波杏明/われは一人の死の意味にながく苦しまむ六月十五日の警官として

大辻隆弘/東京を敵地とぞ思ひ来しことのあはあはとして中野梅雨寒

寺尾登志子/わたくしといふ現象を突き抜けて見えたつもりのあなたが見えぬ

萩原慎一郎/ひるやすみカレーうどんを食べながら愛のない暮らしなどはうんざり

大滝貞一/つゆぞらに首掲げ咲く桔梗(きちかう)の藍(あゐ)は天安門の喪の花として

中川佐和子/故もなく撃たれしひとりを支えつつ撮れと言いたる声が伝わる

外塚喬/生(なま)蒸気がパイプを戻りくる音をとらへて午後のわが耳は鳴る

本条恵/生け垣が羊の群れになる四月「大学通り」に咲くユキヤナギ

大澤サトシ/巻き返し出来ない程にひねくれた外反母趾も自分の歴史

沖ななも/熟れすぎの桃の匂いののぼりたち捏ねあわされて昭和はあるも

有沢螢/春三度(みたび)われに巡り来 動かざる手足やさしく撫づるごとくに

春日いづみ/手鎖の刑を受けしか今朝の夢弓手の手首に痺れ残れり

槇弥生子/吐きし血の500㏄の行方などふと気になればずつと気になる

森岡貞香/今夜とて神田川渡りて橋の下は流れてをると氣付きて過ぎぬ

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