Archive for the '今日の一首鑑賞' category

恨みの数つもりて老いは苦しきにいにしへびとは太鼓打ちたり

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

銜(くは)へ来し小枝はくちばしより落ちぬ改札を抜け君に笑むとき

指半分出る手袋をして会えば指半分だけが見つめられたり

甘えたき気持ち悟られまいとしてイルカのやうな明るさを見す

やや冷えしブリ大根を熱き飯(いひ)に載せてぞ食うぶ春立つあしたを

単純でいて単純でいてそばにいて単純でいてそばにいて

鬼の面はづしてみればあはあはとひかりあひつつうみに咲くはな

かかる深き空より来たる冬日ざし得がたきひとよかちえし今も

吊られあるわがオーバーの若き日の父立つに似ていきどほろしも

ゆるやかに櫂を木陰によせてゆく明日は逢えない日々のはじまり

好きなヒトと好きだったヒトが一階と二階に眠り春の雪降る

こうやって子供を好きになってゆくのだろう青に変わるまでの信号

くたびれた軍手が燃えるうつくしさ人は眠りぬ我も眠らむ

世に別れ去りたる人よ 目に見ゆる近き他界として空はあり

冬の夜の洗面台に忘れたるくれなゐの櫛おもひて眠る

冬の朝つめたき陶となる髪に従容と来てひとは唇触る

寄るべなき思ひにひらく枕絵の火鉢に赤く炭は燃えをり

なだれこむ青空、あなた、舌の根をせつなくおさえこまれるままに

たそがれてゆく樹木らもしばらくは影暖かし人のごとくに

みづからの恋のきゆるをあやしまぬ君は御空(みそら)の夕雲男

トウキョウノユキハナキムシぐちゃぐちゃに轢かれた青い雑誌を濡らす

父さんを忘れたと母が言ふときの父さんは空に咲くはなみづき

流れよる雪のひとひら幸あるは少女のうすき手のひらにのる

影として水面うつろふ水鳥にこころ寄りゆくふたり黙せば

カレンダーの反り美しき一月の泉のごとき十日間ほど

うしろより母を緊めつつあまゆる汝は執拗にしてわが髪乱るる

残り世の半分(なから)は眠らねばならぬ樹齢のながき杉の鬱蒼

きみの名とわたくしの声吸いこめるケルト渦巻模様円盤

からだの中の柊を見てゐるやうな君のまなざし 逢ひたいと言ふ

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