Archive for the '今日の一首鑑賞' category

鋪装厚き道にて人は行き交へり豊かに生まれうまれ継ぎつつ

塹壕に最後までありて死行きし娘子軍ぢやうしぐんの死体まだ暖かに

死んだつてひとりぼつちだ生きたつてひとりぼつちだ世界は馬鹿だ

ゆるきゃらの群るるをみれば暗き世の百鬼夜行のあはれ滲める

ぼくは流す
やさしいオンガク空のほう
人生のリセットボタンをおすとき

ほととぎす霧這ひ歩く大空のつづきの廊の冷たきに聞く

髪の毛をしきりにいじり空を見る 生まれたらもう傷ついていた

手をたれて(いま手をたれて病むひとの手の数に慄然と)われあり

(しはぶき)不意に出る心地してああぼくは一千年を生きねばならぬ

垂直に振子ぞ垂れて動かざる時計ひとつありわが枕がみ

6月の2日の朝に夏が来てあなたに会うので夏バテしそう

なにげなく摑んだ指に冷たくて手すりを夏の骨と思えり

ヴェランダは散らかっていて六月の台風がもうじきやってくる

空の奥へ空が続いてゆく深さ父となる日の土管に座る

すずやかな空の青さで顔を洗う心地のあした七月となる

親馬に添ひて野を来る仔馬見ゆ親はかなしきものにかもあらむ

波とほく寄する耳鳴り 八月の雲が厚みを増してゆくとき

亡き人を語りて書きてそののちにもつと本当のことを思ひ出す

天からのサインが風に溶けてゐて諦めよといふ九月の朝に

片耳をそっとはなした電話から鎖のように声はこぼれる

十月の孟宗竹よそうですか空はそんなに冷えていますか

吉野にはあの世この世を縫ひあはす針目のやうな蝶の道あり

水薬の表面張力ゆれやまず空に電線鳴る十一月

なかぞらのすきまに見えて赤き實の三つ野鳥ののみどへ行けり

灰色の空見上げればゆらゆらと死んだ眼に似た十二月の雪

自動エレベーターのボタン押す手がふと迷ふ真実ゆきたき階などあらず

舞い上がるぺらぺらな紙このままで十三月の空に死にたし

わが脚が一本草むらに千切れてゐるなど嫌だと思ひつつ線路を歩く

あおあおと一月の空澄めるとき幻の凧なか空に浮く

すべからく落つるべき子が落ちしかな大田区池上むかしの肥溜め

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