Archive for the '今日の一首鑑賞' category

山中に木ありて木には枝ありて枝に一羽を止まらせている

朝顔は咲かなかったし約束も守れなかった ブローチを刺す

橋脚ははかなき寄辺よるべひたひたと河口をのぼる夕べの水の

ゆつたりと生きゆく人とゆつたりと死にゆく人が花の真下を

やがて海へ出る夏の川あかるくてわれは映されながら沿いゆく

こわいのよ われに似る子が突然に空の奥処を指さすことも

核実験大成功と歓声の上りたる場所トリニティサイト

僕たちは生きる、わらう、たべる、ねむる、へんにあかるい共同墓地で

捨て身の如くねむれる猫のゐて海はふくらみを夕べ増しくる

わたあめ屋歩めばさらにわたあめ屋売る人の顔みな同じなる

雲を見て今得し歌の片はしを山の鵯鳥ひよどり鳴けば忘れぬ

吉野家の向かいの客が食べ終わりほぼ同じ客がその席に着く

白きシーツに黒き二つの眼が澄みてしづかに人の瞬きをする

急行を待つ行列のうしろでは「オランウータン食べられますか」

くろがねと陶器と硝子と風鈴三つおのづから鳴りおのがじし鳴る

きっと血のように栞を垂らしてるあなたに貸したままのあの本

人間は世のひとかたに去りしごとひそけき昼を爬虫類出づ

夏なのに咲かない向日葵 泣いていた記憶ばかりが鮮明、ずっと

股関節こくつと鳴りぬストレッチは自分のからだを捜すものなり

太陽の沈まぬ国のひまはりは首落つるまで陽を追ふといふ

硝子戸の外にて雨はふるとみえず梅の葉が昏くぽつりぽつり動く

陽炎に裏表ある確信を持ちてしずかに板の間に伏す

卓上に綿棒いっぽん横たわり冬の陽射しに膨れはじめる

炎昼の往還に人絶えぬればあらはるる平沼銃砲火薬店

麻痺の子の逝きて時経し向ひ家に人の笑ひのきこゆと妻は

幼年時代の記憶をたどれば野の果てで幾度も同じ葬列に会う

桃の木はいのりの如く葉を垂れて輝く庭にみゆる折ふし

七月十七日かなかな鳴けり幾度か短く鳴けり夜のベランダに

連結して貨車降りるときこはばりし指のはずれずふる雨の中

モナリザは笑みてをらずと夢に来し誰かは言へり雨月ふかき夜

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