Archive for the '今日の一首鑑賞' category

傘の上ほどろほどろに雪こぼれ地蔵のこころにたたずむわれは

航跡が消えずにのこる夢を見た びるけなう、びるけなう 遥かなり

感情の波のまにまにあらはるるドリアン・グレイの老いし肖像

小雪に凍みた茶褐色の風景があり、うしろ影をみせて行くわが子を見た

風を身にあつめて帰りたる夜にわれの内部に篠笛は鳴る

思慕清く胸こみあげて複製のちいさき絵にもしばし救はる

真直なる生は誰にもあらぬもの雪原を行きし人の足跡

窓もたぬ夜の壁面に影うつる冬木のいちやう枝しげくあり

ノルウェー産ししゃもぢりぢり炙りたり地球寒冷化を説く人もいる

あたらしき羽織の紐のともすれば空解けすなり初冬の夜は

うっすらと脂肪をつけてゆくように貯金を増やす一年だった

かへりみてあやまちなしと誰が言はむ人と物との歪みしげき世に

横にいるわたしはあなたのかなしみの一部となりて川鵜みている

うたかたの職場におのれ尽くし来ぬ指のあはひを風の抜けゆく

光ふるさなか石原吉郎の断念を思ひ冬の草ふむ

慰安婦のほとなる深き井戸の底ぬばたまの天黙し在りしを

小さき粒子の集まりに過ぎぬものなれど写真は語るまことらしきもの

うつぶせになれば怒りも伏せられるのかうつぶせになってみよ

女とはかかるものにて妹が晴着脱ぐとてまたおほさわぎ

肌しろき不良に煙草を投げられし地下道の闇が夜へとつづく

モーニングコール十分前から待つ夫とローマ二日目いさかいをせり

干すまでは洗濯たのし取り入れてたたみてしまふときにひとりぞ

あたたかきパンを齧りて口早にきみが「せんそう」と言う一瞬の闇

とほくにて戦報をいふラヂオありしづかにもえて音なきもみぢ

飴玉の包み紙をすてるまえに折りたたむひと そのくせつめたい

あしびきの山のはたけに刈りのこす粟の素茎を見てすぎにけり

「気持ち塩を入れます」時のその気持ちよく分からない 白菜しんねり

貧しさは人のこころを毀つとぞ壊れし子らの教室に吼ゆ

触れられて哀しむように鳴る音叉 風が明るいこの秋の野に

冷や飯を湯漬けにさらっと立ち食いす午後は氷雨になるやもしれず

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