Archive for the '今日の一首鑑賞' category

ヘヴンリー・ブルー 花であり世界でありわたくしであり まざりあう青

ざっくりとパイナップルを割くときに赤子生まれて来ぬかと恐る

ああ僕を誰の代はりにして君は抱かるる朝の葉月の茘枝(れいし)

下山する日は近づけり立ったまま齝(にれが)む牛の目はふかみどり

十二月八日といふ日つねの如朝の散歩の途次の思ひに

しばらくはだあれも飛び込まないプール揺れつつ光受けいれていて

いつさいを告げたくきみと逢ふ街に初夏の陽ざしの匂ひうづまく

ふた流れ山の清水の落ち合いて互みの澄みを失わず行く

子のゐない夫婦(われら)はしづかな火を焚きぬオカメインコにチャオと名づけて

人工の川のほとりのくらがりで火を点さむと二人は屈む

夏ゼミの鳴き声達者七つ時うちで育ちし蟬と思えば

まよなかのメロンは苦い さみしさをことばにすれば暴力となる

ゆうぐれの電車静かにポイントを渡る今からおまえが好きだ

スプライトで冷やす首筋 好きな子はゐないゐないと言ひ張りながら

ダライ・ラマ帰るなき夏の宮殿に咲き盛る僧衣に似たる緋の花

麦藁帽似合ふ男になりきしを朝の鏡にふとさみしめり

折々の母老いしむる「ありがとね」その不可思議な響きのにがさ

頭(づ)のうへを蜻蛉つーい、つーい飛ぶ明日といふ日はあさつてのきのふ

万緑に隧道(トンネル)ふかく穿たれてあばら骨愛しぬきたる闇

このキスはすでに思い出くらくらと夏の野菜の熟れる夕ぐれ

遠いドアひらけば真夏 沈みゆく思ひのためにする黙秘あり

夜の道に敷きたるゑんじゆ花殻の生(なま)しきを踏む靴の裏にて

かなかなやわれを残りの時間ごと欲しと言いける声の寂しさ

メモ用紙置きて去りにし一人居て朝顔の花に載るほどの文字

一片の空にこと足りてあり経れば切切と君の手紙は届く

いまだ日は長きに夏至の過ぎたるを繰り返し言う追われるごとく

男ゆゑ男への恋が実らずと高校生が保健室で泣く

なくでない泣いてはならぬと鳴く蝉の津浪のごとき号泣にあう

蜩(ひぐらし)の声あるごとし山のにほひあるごとし心しづめがたしも

またちがふ蝉が鳴きだし窓のそとひとつづつふえてゆく距離があり

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