正岡 豊「Biplane」
睦月都・佐々木朔発行『一月一日』vol.3(2016年)掲載
第2句を読むと、というか一瞥すると「早っ」と言いたくなります。7音のうちに新学期が始まって終わってしまうなんて。
季節はいつでしょう。俳句なら「新学期」は春の季語です。では、その〈おわり〉っていつでしょう。
菜の花はこちらを向いていなくても私に気がつく子犬のようだ
という歌が次にあるので、春の終わりあたり、新学期も終わるなあという思いがわくのかもしれません。「新」の感じが消えるころ、〈ミニチュアの銀の複葉機〉という鮮やかな具体物がてのひらの上に(?)忽然と降りてくるようです。
忽然と、と思うのはひとつには誰からもらったか書かれていないこと、そしてそれは夢だということからきています。神様か妖精からもらったような……。
一定の時の経過を一瞬にとらえ、手ざわりある夢として差し出すのは、作者の技法というより生理なのでしょう。
ひとが次に見なければならない夢か まわる花屋敷の飛行塔
飛行機の模型にせよ遊具にせよ、飛ぶのではなく、飛ぶ夢を見せてくれるものであるというのが、ものがなしくもあります。
『一月一日』はネットプリント(ユーザーがコンビニエンスストア等のコピー機で出力して読む印刷物)。毎号、発行人の睦月さんと佐々木さんが自作短歌のほか、一冊の歌集をめぐる対談を掲載しています。
小池光『バルサの翼』、斎藤史『魚歌』、今号は正岡豊『四月の魚』。若手歌人にとっての、正岡さんの“伝説”っぷりが伝わってきました。
火星燃ゆ 六月われの棲む部屋に漫画本あふれかへつてしまふ 睦月 都
行くだけで三百円もかかるけどいい古書店があったいい町 佐々木 朔