君でない男に言われ立ち止まる「あなたが淋しい人だから」など

里見佳保『リカ先生の夏』(角川書店:2004年)


(☜4月10日(月)「人から見た自分 (7)」より続く)

 

◆ 人から見た自分 (8)

 

想いを寄せる「君」とは異なる人に「淋しい人」だと言われて、立ち止まる。この「立ち止まる」とは、そのようなことを言われて実際に足を止めたという意味にも解釈できるし、言った相手や言われた内容が心が残ったとも解釈できる。いずれにせよ、相手のことが気になりだした瞬間を描いた一首と言える。
 

「あなたが淋しい人だから」という言葉には、言った本人としてはもしかすると口説き文句としての多少の誇張があるのかもしれない。しかしながら、言われた側としては、思わぬ角度からの思わぬ指摘だけに、心にすっと刺しこまれるように入り込んでくる。
 

終発のベルはいまにも鳴り終はる さびしいなんてとても言へない  桜木裕子『片意地娘(ララビアータ)
ふたりではさびしいということが言えなくて花火を見て月を見る  土岐友浩『Bootleg』

 

引いた二首において、「さびしい」はずなのにそう言うことができないのは、恋愛関係にあるからであろう。一方で、掲出歌は自分自身ではさびしいと思っていなかったのに、恋愛関係にない他の人から指摘されることが対照的で興味深い。
 

「淋しい人だから」の先は何なのだろう。「だから、気になる」のか「だから、傍にいたい」なのか。そして、それに対して何と言葉を返したのだろうか。その点がばっさりと省かれている点が、一首から始まる物語をより大きく膨らませる。
 

さて次回は、同じく恋の物語の始まりを強く予感させる歌をもう一首紹介したい。始まりを強く予感させる…のだが、どうも様子が違う――
 
 

(☞次回、4月14日(金)「人から見た自分 (9)」へと続く)