今井恵子


捨て身の如くねむれる猫のゐて海はふくらみを夕べ増しくる

真鍋美恵子『羊歯は萌えゐん』(1970年・新星書房)

 

猫は微動だにせず深く眠っているのだろうか。やけっぱちになって眠っているのだろうか。「捨て身の如く」眠るという表現は、睡眠の安らぎや和みからはるかに遠い。何かに挑んでいるかのように、緊張が漲る。その向こうに見える海は、夕闇のなか、潮が満ちてくる。それを「膨らみ」と、量感でとらえている。眠る猫と満ち潮の海が、構図のなかで拮抗する。三句の「て」の、強引ともいえる接続が働いているのだろう。こうした対照のありかた、すなわち外界に向かう張りつめた拮抗は、ものを見るときに用意する作者のスケールを思わせる。

 

真鍋美恵子は、「心の花」に所属し、「女人短歌」に参加した。河野裕子は「心情表白ではなく、対象をシャープに切り取ることによって、人間の本質に迫ろうとした。評論や歌壇に向けての発言は少ないが、戦後屈指の実力派歌人である」(『現代短歌大事典』「真鍋恵美子」の項)と、高く評価している。「対象をシャープに」という印象は、如上の印象的イメージの組み合わせでもあきらかだが、通常では目をそらすような残酷や悲惨にも筆をゆるめない表現の徹底にある。

 

月のひかり明るき街に暴力の過ぎたるごとき鮮しさあり

ましろなるタイルの上に水湧きてまざる池が春日しゆんじつにあり

歯ぐきより血をにじませて青林檎噛みをり孤独に老いたる人が

 

表現の追求をつづけた、このような歌人が現れたことは、「女人短歌」の功績の一つに数えられていい。